不躾とは?
「初対面でいきなり不躾な質問をされた」「不躾な人物は相手にしない」などという表現がありますが、この「不躾(ぶしつけ)」という単語を、正確に理解している人は少ないかもしれません。そもそも単語自体をあまり見かけないかもしれませんね。
さて、不躾は「不」という字がついているのでマイナスイメージであることは容易に想像がつきます。「不仕付け」とも表記しますが、「不躾」が一般的です。「躾」とは「しつけ」で、「身」が「美しい」ふるまいといった意味でつくられた日本オリジナルの漢字。礼儀作法などを身につけさせる、また、そうして身についた礼儀作法のこと。ですから不躾は礼儀作法が身についていない、失礼なふるまいという意味です。
不躾なお願いとは?
では、「不躾なお願い」とはどんなお願いでしょうか? 不躾とは、失礼なふるまいのこと。そのため、不躾なお願いとは失礼な、無茶なお願いのことを意味します。相手にとって急なことであったり、手間をかけさせてしまうことであったりするときに使います。
そのため、「不躾なお願いで申し訳ありませんが…」「不躾なお願いにもかかわらずご対応いただき…」などのように、後に続く文言で敬意を表します。「不躾」という言葉自体は敬語表現ではないので注意しましょう。
「不躾なお願い」の使い方
本来礼儀正しくふるまうことが求められている場面で、失礼な態度を取ることを「不躾」といいます。では、不躾なお願いという言葉はどのような場面で使うのか、例文とともに見ていきましょう。
お願いの内容
前述したように、「不躾」とは相手に対して失礼な、無茶なお願いのこと。こちらの都合で相手に手間を取らせてしまう場合や、本来ならば前もってお願いしなければならなかったことが急になってしまった場合に使うのが一般的です。謝罪や感謝の気持ちをこめます。
使ってはいけない場面
失礼な、無茶なお願いのことですが、誰かに大きな迷惑をかけたり、損害を与えたりするような失礼極まりないお願いには使いません。また、何度も繰り返して「不躾なお願い」をすることもNGです。急を要するとき、本当にしかたがないときのみに使います。
不躾なお願いの例文
以下に、不躾なお願いという表現を用いた例文を挙げます。使う際の参考にしてみてください。
1:不躾なお願いで申し訳ありませんが、本日中のご回答をお願いいたします。
2:不躾なお願いではありますが、明日までにご返信いただきたく存じます。
3:不躾なお願いで恐縮ですが、来週のセミナーをご担当いただけないでしょうか?
4:このたびは、私たちの不躾なお願いにも快諾してくださり感謝しております。
5:彼の部長に対する言動は不躾だ。
6:このような不躾なお手紙を差し上げること、お許しください。
7:彼女の不躾な態度は目に余る。
不躾の類義語
不躾の類義語について見ていきましょう。似た言葉は多くありますが、それぞれニュアンスが異なるので注意が必要です。
1:失礼(しつれい)
礼儀作法に反したふるまいをすることです。
例文:「彼は部長に対して挨拶もしないとは失礼だ」
2:失敬(しっけい)
人に対して礼を欠いたふるまいをすることです。
例文:「先日はゆっくり話す時間がなくて失敬しました」
3:無礼(ぶれい)
「無」はない、という意味ですから、礼儀や作法がないということです。
例文:「彼は無礼な手紙を送ってよこす、けしからん男だ」
4:非礼(ひれい)
「非」は正しくないこと、道理に合わないこと。礼儀として正しくないことを意味します。
例文:「このたびの非礼なふるまいをお許しください」
一般的には「失礼」が最も広く用いられ、「失敬」「失礼」「無礼」の順に重くなります。「失礼」は性別問わず使いますが「失敬」は男性が多く使う印象のある表現。似たような意味ですが「不躾」は本質的なところで礼を欠いているというのではなく、躾ができていなくて人に接するときの礼儀作法を知らないという意味です。
不躾なお願いの言い換え表現
不躾なお願いの言い換え表現にはどんなものがあるか、見ていきましょう。
1:急なお願い
遠回しな言い方をするより、急なお願いとした方が不躾な理由が明らかになります。
例文:「急なお願いで申し訳ありませんが明日までにご回答願います」
2:厚かましいお願い
厚かましいは、遠慮や慎みがない様子を表します。「図々しい」とも表現。お願いする内容が相手に無茶なことであるとわかっているときに使うと、引き受けてくれやすい雰囲気を出すことができます。
例文:「厚かましいお願いで恐縮ですが、提出期限を1日延ばしていただけますか?」
3:失礼を承知でお願いいたします
不躾は礼儀作法がなっていないこと。それは失礼にあたりますので、言い換え表現としては一番伝わりやすいのではないでしょうか。
例文:「この件に関しては、失礼を承知でお願いいたしております」
不躾なお願いの英語表現
最近は、ビジネスシーンでも外国の方と交流する機会が増えました。不躾という言葉に対応するのは、「ill-bred(しつけの悪い)」「impolite(無作法な)」といった単語がありますが、不躾なお願いをする場合、どのような表現があるのかを紹介します。
1:「Please excuse me for rudely contacting(calling)you like this.」
訳:不躾なご連絡をお許しください。
2:「Excuse me for asking, but are you out of work now?」
訳:不躾なことを伺って失礼ですが、あなたは今失業中ですか?
3:「He had the impudence(cheek)to interrupt our conversation.」
訳:彼は不躾にも私たちの話に口をはさんだ。
まとめ
不躾なお願いとは失礼な、無理なお願いのことをいいます。相手に対して申し訳ないという気持ちを伝える言葉を続けることによって、謝罪の気持ちを伝えられます。しかし可能であれば、日常生活でもビジネスシーンにおいても、先方に不躾なお願いをしなくて済むようにしたいですね。どうしても不躾なお願いが必要な場合は、真摯な態度を心がけたいものです。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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