褒めることの効果
子供の教育や、部下や後輩の指導において、褒めて伸ばすことの大切さが盛んに言われています。自動車教習所でも、昔は生徒を叱り飛ばしながら教える教官もいましたが、最近はすっかり、褒めながら指導するスタイルに。しかし、いざ自分が行なおうと思うと、どう接するのが「伸びる褒め方」なのか戸惑うこともあるのではないでしょうか。
褒める効用や、褒めて伸ばすコツ、そして勘違いしないための注意点などを一緒にみていきましょう。周りの大切な人たちを褒めて伸ばせるようになると、嬉しいものです。
褒めることには、どんなメリットがあるのでしょうか。まず、褒められた人にどのような効果があるのか、確認しましょう。
1:自己肯定感が上がる
小さな成功体験を積み重ねることで、少しずつ自己肯定感が高まります。親や先輩、上司など周囲が上手く褒めることで、成功体験の自覚が強まり、ありのままの自分を肯定することができるようになるわけです。その結果、安心して積極的に行動できるようになります。
「自己肯定感」という言葉は、心理学者の高垣中一郎氏によって提唱されました。高垣氏は自己肯定感を「自分が自分であって大丈夫、という安心感」と説明しています。逆の感情は「どうせ自分なんて」という自己否定感です。
2:成長に意欲的になる
褒められ、自分が認められていると感じると、脳内でドーパミンが放出されることが脳科学で分かっています。ドーパミンは、幸せを感じたり、意欲を作ったり感じる、などの働きがあるとか。モチベーションが向上するので、成長に繋がります。
3:周囲を受け容れられるようになる
自己肯定感が高まると、自然と周りのいろいろな人を受け容れることもできるようになります。その結果、対人関係も良好になり、しんどさやトラブルも減るので、自分がやりたいことに集中もしやすくなるでしょう。
4:相互関係、信頼関係が構築しやすくなる
人から認められたいという承認欲求は、人間なら誰もが持つ願望といわれています。アメリカの心理学者マズローは「欲求5段階説」で、人は所属する集団や仲間があれば、その集団の中で認められたいという欲求が湧く、と説明しました。
褒められることは認められている証拠。承認欲求が満たされることで、相互の信頼関係が構築しやすくなります。
5:褒める人は気持ちが明るくなる
脳内の変化は、褒める側にも起きます。褒める人の脳内では愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが放出され、ストレスが緩和するとか。
褒められて伸びる年齢は
褒めて伸びるのに年齢は関係ありません。喜ばしいですね。学習能力や運動能力という身体機能の影響で、伸び方が変わる可能性はありますが、子供から大人、シニアまで、褒めて伸びる効果が認められています。
伸ばす褒め方、ポイント3選
それでは、具体的に褒め方のコツをみていきましょう。
ポイント1:できていないことではなく、できていることに注目
わたしたちは、ついつい、有るものではなく無いものが気になって不満や不安を覚えたり、できていることよりできていないこと、足りているものより足りないもの、のことを気にしがちです。その反対を心がけましょう。
子供が漢字の勉強頑張って期待していたけれどテストで70点を取ってきたら、「あー、あと2つ正解なら80点なのに。あと2つくらいもう少し頑張れば書けたのでは? 」と思ったり、後輩が張り切って引き受けてくれた事務処理にミスが散見されると、「自ら買って出てくれるのはいいけれど、やるなら責任もって間違わないようにしてくれないと」と思ったり。そんなときは、「8割正解できたこと」「快く積極的に引き受けたこと」に注目。先ずはそこを認め褒めましょう。
ポイント2:具体的に褒める
「さすが」「すごいね」「えらいなぁ」「立派ですね」のように、抽象的な言葉で褒めていませんか? これらは、便利な褒め言葉でもありますが、できれば「この仕事を○日間で終えてくれて、さすがですね」「夕飯前に宿題を終わらせて、えらいね」のように、具体的に伝えましょう。相手に、しっかり見守っていることも伝わります。
ポイント3:チャレンジしたことを褒める
成功した結果だけを褒めようと思い「褒めることがない」と感じていませんか? チャレンジしたこと、その心意気、その時の努力や工夫、など考えてみると褒める点はたくさん見つかりそうです。小さな一歩でも、それを褒めましょう。小さな変化を認めて褒めることは、とても大切です。
間違いやすい3つのポイント
「褒めることはよいこと」と思うあまりの勘違いに、気をつけましょう。褒め方を間違えると、デメリットが表れることがあります。3点押さえておきましょう。
NGポイント1:何でも過剰に褒める
少しでも成長してほしい、と思う一心であったとしても、やたらなんでも大げさに褒めるのはやめましょう。褒められないと不安を覚えたり、やる気をなくすという現象も起きます。また、時には「次になにをすれば褒められるのか」ということを無意識のうちに気にするようになり、大学受験を終えた青年期頃に自分がなにをすればよいのか分からなくなる若者もいます。ちょうどよいさじ加減を見つけましょう。
NGポイント2:叱らないようにする
褒めることも叱ることも大切です。叱ることで正しい方向へ導くことも必要。叱るというのは、感情的になって怒鳴ったり、相手の人格を攻撃することではありません。次から何をどうしてほしいのか、具体的に伝えることです。
叱った点が改善されたら、そこを褒めるという循環で、叱って伸ばす、ということもできます。
NGポイント3:他人と比較して褒める
他人を引き合いに出して褒められた人は、素直に喜べなかったり、どうしてその人と比べるんだろうと不審に思ったりするもの。子供なら、その子のことばかり気にするようになるかもしれません。比較するならば、過去の本人と比べ、変化や成長を褒めましょう。
最後に
最後に、有名人の言葉で記事を締めくくるとしましょう。山本五十六(やまもと・いそろく)の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」と言う言葉を耳にしたことはありますか。太平洋戦争の連合艦隊司令長官を務め、歴史的に有名な作戦を指揮した人物です。初めてのことを教えて自律的に取り組んでもらうには、「どうするかをやってみせる」→「目的や意義などを説明する」→「させてみる」→「褒める」という全過程が必要だということを端的に述べた名言とされています。
こちらの期待通りでないときも、できている点や努力した点などを認め、相手が継続して前向きに取り組む原動力を与えましょう。
監修
米山万由美(よねやま・まゆみ)
キャリアコンサルタント
アンガーマネジメントファシリテーター(R)
組織の1on1面談や人財活用コンサルタント、研修講師として活動。楽しくはたらき楽しく暮らすを応援。趣味はチェロ演奏。
ライター所属:京都メディアライン
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