敬語とは
コミュニケーションを取る中で、言葉遣いは相手との関係を決めるとても大きな要素です。言葉「使い」ではなく、言葉「遣い」と表現する意味も考えてみましょう。「遣う」には、思い通りに操る、注意を払って心を働かせる、といった意味合いがあります。心遣い、人形遣い、のように使われますね。
敬語とは、話し手が聞き手や話題にしている人物や物事に対して、敬意を表現する言葉遣いの総称です。敬語についての基礎知識と、ビジネスシーンでよく使う敬語の使い方や注意点などを確認していきましょう。
敬語を使う目的
最近は、新入社員研修で「人間は皆平等だから敬語なんか必要ないのでは。誰にでもフランクに話して、なにが悪いのですか?」と質問する若者もいます。しかしながら、高級レストランに入って「あっちに座って待っといて」「あんた、何が欲しい?」と言われたらどんな気持ちがするかを尋ねると、「それはないだろう」とか「二度と行きたくない」と、違和感を口にする人が大半です。
敬語とは、必ずしも人間としての尊厳に上下を付けるわけではなく、その場での関係性で、相手への気配りや敬意を表し、互いに気持ちよく円滑にコミュニケーションを進めるために用いるものです。人生の先輩の経験や能力への敬意、品物を検討してくれるお客様への敬意、などあります。相手もまた話し手に対して敬語で応えることも多いものです。
敬語の種類
敬語は「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類(下の左側)でしたが、現在は、2007年の文化審議会国語分科会の答申で5種類(下の右側)に分類されています。
・尊敬語 ⇒ 尊敬語
・謙譲語 ⇒ 謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)
・丁寧語 ⇒ 丁寧語・美化語
5種類の敬語を順にみていきましょう。
尊敬語:相手の動作や状態などを高めて、相手への敬意を表す
【例】いらっしゃる、おっしゃる、召し上がる、ご立派、お忙しい、お名前、ご住所(相手の住所)
主語は相手です。会社の上司や取引先の人、師と仰ぐ人、年上の親族など、目上の人に対して使いましょう。
謙譲語Ⅰ:自分の行為をへりくだることで相手を高め、相手への敬意を表す
【例】伺う、申し上げる、お目にかかる、差し上げる、お届けする、ご案内する、ご説明
謙譲語は、相手を直接高める表現ではなく自分の行為をへりくだる表現なので、主語は自分や身内です。2007年の答申で謙譲語は2つに分類されました。謙譲語Ⅰは、相手がいる場合に使われる謙譲語です。
謙譲語Ⅱ(丁重語):自分の行為や物事を謙虚に表現する
【例】参る、申す、いたす、拙著、小社
謙譲語Ⅱは、高める相手がいない場合に使われている謙譲語です。丁重語ともいわれます。丁寧語と言葉が似ているので注意しましょう。
丁寧語:丁寧な言葉遣いによって相手への敬意を表す
【例】です、ます、ございます
従来の丁寧語も二つに分類され、丁寧語と美化語になりました。丁寧語は、相手の有無は問いません。述語を丁寧に表現しています。
プライベートではざっくばらんな言葉を使っていても、ビジネスなど公の場では、丁寧語で書いたり話したり、使い分けましょう。
美化語:丁寧で上品な言葉遣いによって相手への敬意を表す
【例】お料理、お茶、ご飲食、お身体、ご住所
言葉に「お」や「ご」を付けて丁寧に表現しているのが美化語です。「相手を高める意思は含まれない」点が、尊敬語や謙譲語Ⅰの「お」「ご」が付いている言葉との見分け方です。少しややこしいですね。
敬語、言い換え練習問題
習うより慣れろ! です。実際のビジネスシーンによく出てくるセリフを練習問題にしました。どのように変換すればよいか、品良く丁寧か、トライしてみましょう。
問題1:社長は明日出社しますか? 私は明日出社します。
(正解例)→ 社長は明日出社なさいますか? 私は明日出社いたします。
「する」の尊敬語は「なさる」、謙譲語は「いたす」です。
問題2:部長が来ますか? それとも私が行きましょうか。
(正解例)→ 部長がいらっしゃいますか/お越しになられますか? それとも私が参りましょうか/伺いましょうか。
「来る」の尊敬語は「いらっしゃる」「お越しになる」、謙譲語は「参る」「伺う」などです。
問題3:客がそう言いました。私はこう言いました。
(正解例)→ お客様がそう仰いました。私はこう申し上げました。
「言う」の尊敬語は「仰る」、謙譲語は「申す」「申し上げる」です。
間違いやすい表現とポイント
ビジネスシーンでうっかり間違えて使わないよう、覚えておきたい言葉や表現を確認しておきましょう。
1:御社と貴社、弊社と小社、の使い分け
主に御社は口語で、貴社は文書で使われています。御社は文書でも違和感ありません。これらに対して自分の会社を謙遜して言う言葉は、弊社と小社です。小社は文書で使われます。よく似た言葉、当社は、自分が勤務している会社をニュートラルに指す言葉です。
2:社外の人に社内の上司のことを伝えるとき
上司の行動であっても、話す相手がお客様など外部の方の場合は、上司の行動に尊敬語は使いません。2つのケースで、よい例と悪い例を確認しておきましょう。
ケース1:取引先の人に、自分の上司(部長)の帰社時間を尋ねられた場合
○「部長は15時に戻る予定です」 ×「部長は15時にお戻りになる予定です」
ケース2:外部の人に、自分の会社の社長がもうすぐ来ることを伝える場合
○「弊社の社長が、間もなく参ります」 ×「我が社の社長が、間もなくいらっしゃいます」
3:分かりました、はどう表現する?
「かしこまりました」「承知しました/承知いたしました」がベター。「了解しました」も時々耳にしますが、元々「了解」は目上の者が目下の者に許可を与えるときに使われた言葉です。また、無線交信で短く返事するために使われてきた言葉でもあります。
したがって、社外の人や上司に対する「了解です」は、失礼と感じる人が多いので注意しましょう。「了解いたしました」とすれば大丈夫と思っている人もいるようですが、語尾が丁寧でも、「了解」自体を敬意を表すべき人に使うのは、適切ではないでしょう。
最後に
ビジネスシーンに限らず、社会人として敬語を自然に正しく使えると気持ちいいですね。周りからの信頼も増すもの。そして、敬語はコミュニケーションの一部ですから、敬語とバランスの取れた挨拶、表情、声になっているかも意識してみましょう。
監修
米山万由美(よねやま・まゆみ)
キャリアコンサルタント
アンガーマネジメントファシリテーター(R)
組織の1on1面談や人財活用コンサルタント、研修講師として活動。楽しくはたらき楽しく暮らすを応援。趣味はチェロ演奏。
ライター所属:京都メディアライン